バリ島マンタの種類・見分け方・生態!繁殖やマンタトレインの謎を解説

マンタは、エイの仲間の中で世界最大級のサイズを誇る、ダイバー憧れの生き物です。
大きなものは体幅6メートルを超えることもあり、そのダイナミックかつ優雅な泳ぎと穏やかな性格から、ダイバーの間で「海の優しい巨人」として親しまれています。
特にここバリ島のヌサペニダは、一年を通してマンタと出会える世界有数のスポット。複数のマンタが列をなして泳ぐ「マンタトレイン」に遭遇したときの感動は、一度味わったら忘れられない体験となるでしょう。
しかし、マンタの魅力は、その美しい姿や大きさだけではありません。
実はマンタは、魚類の中でもトップクラスに大きな脳を持ち、優れた学習能力や認知能力(知能)を備えていると考えられています。また、餌を求めて深海まで潜水したり、独特な繁殖行動を見せたりと、いまだ多くの謎に包まれた知性あふれる生き物なのです。
本記事では、16年以上バリ島でマンタを観察し続けてきた現地プロダイバーの視点から、バリ島で見られるナンヨウマンタはもちろん、世界最大のエイであるオニイトマキエイにも触れながら、マンタという生き物全体の奥深い生態に迫ります。
📝本記事で解説する内容
- マンタとエイの違いとは?:意外と知らない分類の基礎
- 2種類のマンタの特徴と見分け方
- 食性や驚くべき生態の秘密
- 魚類トップクラス?マンタの知能レベルを徹底解剖
- バリ島でマンタに高確率で会える理由:クリーニングステーションの重要性
- マンタの神秘的な繁殖行動:「マンタトレイン」の謎
- マンタを守るために:今、私たちができる環境問題と保護活動
神秘に満ちたマンタの世界を、一緒に探検してみましょう。
マンタとエイの違いとは?シルエットは似てても「生態」は別物!

トビエイ目トビエイ亜目アカエイ科

トビエイ目トビエイ亜目アカエイ科

トビエイ目トビエイ亜目トビエイ科
マンタは、エイの仲間の中でも世界最大級の大きさを誇る生き物です。
しかし、私たちが普段「エイ」と聞いて思い浮かべる一般的な種類とは異なるグループに分類され、同じエイの仲間でありながら、その生態や特徴には大きな違いがあります。
実は、ダイビングやシュノーケリングでよく出会うエイたちは、以下のような細かく分類されています。
📌知っておきたい「エイ」の分類一覧
- アカエイ・ヤッコエイ:トビエイ目トビエイ亜科アカエイ科(砂地に潜むグループ)
- マダラトビエイ:トビエイ目トビエイ亜科トビエイ科(中層を泳ぐグループ)
- マンタ(ナンヨウマンタ等):トビエイ目トビエイ亜科イトマキエイ科(世界最大のグループ)
見た目のシルエットはよく似ていますが、「毒針の有無」や「エサの食べ方」、「生息環境」、さらには「性格」まで異なります。
まずは、マンタと一般的なエイ(アカエイ科など)の決定的な違いを、分かりやすい比較表で見てみましょう。
マンタと一般的なエイ(アカエイなど)の決定的な違い
📊 マンタと一般的なエイの比較一覧表
| 比較項目 | マンタ (イトマキエイ科) | 一般的なエイ (アカエイ・ヤッコエイなど) |
|---|---|---|
| 目の位置 | 頭の左 (両脇) | 体の上側(背中側) |
| 口の位置 | 頭の前 (正面) | 体の下側(腹側) |
| サイズ | 世界最大のエイ (オニイトマキエイは6m超) | 大きさはまちまち。 ・ホシエイ:最大2m重さ350kgに成長 ・アトランティックスティングレイ:30㎝~45㎝ |
| 尾 (毒針) | 尾に毒針がない | ほとんどの種で尾に毒針を持つ |
| 摂食行動 | 濾過摂食 (海水ごと飲み込みろ過するように食べる | デビルレイ(イトマキエイ以外は底を這うように食べる) |
| 交尾方法 | 交尾の初めにマンタトレインを作り、 オス連なってメスを追う | |
| 寿命 | 40年~50年 | 15年~25年 |
| 知能 | 魚類で最大の脳を持ち、知能が高い | |
| 性格 | 穏やか | 比較的内気で接触を避ける傾向がある。 追いつめられると攻撃的になる |
| 生息地 | 外洋または海岸線ちかくのサンゴ礁 | マンタより広範囲に分布。 外洋、海底、サンゴ礁の近く、淡水の川にも住む |
| 回遊魚 | 水底でじっとしていることも多い |
マンタの目は「頭の左右」にあり、広い視野を確保
常に中層を泳ぎながら前方のプランクトンを探すため、マンタの目は頭の左右(両側)に配置され、広い視野を確保しています。
一般的なエイの目は「体の上側(背中側)にあり、上を警戒する
砂の中に潜んでいる間、天敵に襲われないよう、目は体の上側(背中側)に飛び出すようについています。
エイ・マンタの生物分類階級
| エイ(Batpodae) | |||
| トビエイ目(Order) | |||
| Torpediniformes | シビレエイ | ||
| Rhinopristiformes | ノコギリエイ | ||
| Rajiformes | ガレキエイ | ||
| Myliobatiformes | トビエイ目 | ||
| 亜目(Sub-order) | |||
| Platyrhinoidei | |||
| Zanobatoidei | |||
| Myliobatoidei | トビエイ亜目 | ||
| 科(Family) | |||
| Hexatrygonidae | ムツエラエイ科 | ||
| Plesiobatidae | ウスエイ科 | ||
| Urolophidae | ヒラタエイ科 | ||
| Urotrygonidae | ウロトリゴン科 | ||
| Dasyatidae | アカエイ科 | アカエイやヤッコエイなど | |
| Potamotrygonidae | ポタモトリゴン科 | ||
| Gymnuridae | ツバクロエイ科 | ||
| Myliobatidae | トビエイ科 | マダラトビエイ | |
| Mobuidae | イトマキエイ科 | マンタ | |
| 属(Genus) | |||
| イトマキエイ属 | Mobula alfred | Reef manta ray | ナンヨウマンタ |
| Mobula birostiris | Giant oceanic manta ray | オニイトマキエイ | |
| Mobula hypostoma | Atlantic pygmy devil ray | タイセイヨウイトマキエイ | |
| Mobula kuhlii (eregoodootenkee) | Shorthorned pygmy devilray | ||
| Mobula mobular (japanica) | Spinetail devil ray | イトマキエイ | |
| Mobula munkiana | Munk’s pygmy devil ray | ムンクイトマキエイ | |
| Mobula tarapacana | Sicklefin devil rays | タイワンイトマキエイ | |
| Mobula thurstoni | Bentfin devil ray | ヒメイトマキエイ | |
| Mobula rochebrunei |
マンタは2種類いる!知られざる分類の歴史

現在、マンタは①オニイトマキエイと②ナンヨウマンタの2種類が認められています。
しかし、この結論に至るまでには、分類学上の大きな変更がありました。
かつて科学者たちは、「マンタは1種類しかいない」と考えていました。
そのため、オニイトマキエイとナンヨウマンタは長い間、同じ種として扱われ、オニイトマキエイ属(Manta)に分類されていたのです。
その後の研究の成果や科学の進歩によって、これまでの常識が塗り替えられていきました
マンタの常識を変えた「2つの転換期」
- 2009年:海洋生物学者アンドレア・マーシャル博士の研究によって、マンタには「実は2種類の異なる種が存在する」ことが明らかになりました。
- 2017年:さらに遺伝子解析が行われた結果、これら2種類のマンタは、「イトマキエイ属(Mobula)」に統合されることになり、現在にいたります。
イトマキエイ科イトマキエイ属:リスト

2種類のマンタを比べてみよう:体の特徴や生息地
現在認められているマンタは、オニイトマキエイとナンヨウマンタの2種類です。
両者はよく似ていますが、生息環境や体の大きさ、体表の模様などに明確な違いがあります。
最大の違いは、その暮らしの場(生息環境)にあります。
- オニイトマキエイ:主に外洋を回遊する世界最大のエイ
- ナンヨウマンタ:沿岸やサンゴ礁周辺に根付いて生息するエイ
バリ島でダイバーが出会うマンタのほとんどは「ナンヨウマンタ」です。
それでは、この2種類のマンタには具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
まずは体の特徴や生息環境を比較してみましょう。
📌知っておきたい豆知識:ブラックマンタとは?
マンタはメラニズム(黒化現象)によって体全体が黒くなることがあり、このような個体は「ブラックマンタ」と呼ばれています。ブラックマンタは世界的には珍しい個体とされていますが、バリ島ヌサペニダでも観察されています。
普通のナンヨウマンタと比べると数は圧倒的に少なく、多くのダイバーが一度は見てみたいと憧れる存在です。
オニイトマキエイとナンヨウマンタ:見分け方のポイント
オニイトマキエイとナンヨウマンタはよく似ていますが、いくつかの特徴を見ることで見分けることができます。
特に重要なチェックポイントは、次の3つです。
- 背中の白い斑紋(模様の形)
- 口の周りの色 (白か黒か)
- お腹の黒い斑点 (エラ穴のまわり)
| 比較項目 | オニイトマキエイ (ジャイアントマンタ) | ナンヨウマンタ (リーフマンタ) |
|---|---|---|
| 学名 | Mobula birostris | Mobula alfredi |
| 英名 | Giant oceanic manta ray | Reef manta ray |
| 生息地 | 熱帯・亜熱帯の外洋を回遊 | 熱帯・亜熱帯の沿岸(サンゴ礁) |
| 大きさ | 6m以上に達する | 5mほど (オニイトマキエイより小ぶり) |
| 背中の白い模様 | 白い波紋が口に沿って平行に直線的にある | 白い波紋が後ろに向かってハチの字(V字)にカーブ |
| 口の周りの色 | 黒い部分が多い | 白もしくは薄い灰色 |
| お腹の黒い斑点 | 第5鰓孔(エラ穴/えらあな)に接して黒い波紋がある | 黒い波紋がない、もしくはほんのわずか ダルメシアンのような黒い点がある |
バリ島で見られる「ナンヨウマンタ」の特徴
バリ島をはじめ、ダイバーがよく出会う「お馴染みのマンタ」がこちらです。


- 背中の色:基本は背中が黒、お腹側が白(※例外として:全体が真っ黒なメラニズムの「ブラックマンタ」もいます)
- 背中の白い斑紋:頭の後ろにある白い模様が、後ろに向かって「八の字(V字)にカーブしてます。
- 口の周の色:口の周りは白い色で囲まれている
- 第5鰓孔(えらあな):黒い斑紋がない
- お腹の模様:ダルメシアンのような黒い点がある
世界最大のエイ「オニイトマキエイ」の特徴
まさに「ジャイアント」の名にふさわしい世界最大のエイです。外洋をダイナミックに回遊しているため、
ダイビング中に出会えらたら非常にラッキー。

- 背中の白い斑紋:背中に白い斑紋が口のラインに沿って「平行で直線的」にある
- 口の周の色:黒い部分が多く、特徴的
- 第5鰓孔(えらあな):お腹側の第5鰓孔に接して黒い斑紋が見られる
マンタの主食は何?エサの種類や驚きの食事量を解説
優雅に海を舞うマンタですが、あの大柄な体を維持するために、一体何をどれくらい食べているのでしょうか?
マンタの好物は小さな「動物性プランクトン」です。
具体的には、カイアシ類、アミ(Mysid shrimp), カニの幼虫、エビ、オキアミ、軟体動物の幼虫や魚の卵などを食べます。
豪快すぎる!マンタの食事シーン「濾過摂食」と驚きの量
マンタは視覚と嗅覚を使ってエサの集まりを見つけると、信じられないほど豪快な方法で食事を始めます。
大きな口を開けて海水ごとエサを飲み込み、その中に含まれるプランクトンなどの小さな生物だけを「こし取って」食べるのです。不要な海水は、お腹側にある鰓孔(えらあな)から排出されます。
この食べ方を「濾過摂食(ろかせっしょく)」と呼び、ジンベエザメも同じ方法でエサを食べています。

マンタは下あごに歯があるのに、歯を使わず、
濾過摂食(ろかせっしょく)という方法でエサを取るんだね。
どれくらいの量を食べるの?
この豪快なため方で、マンタは驚くほどの量を平らげます。
なんと、マンタは一週間に、自分の体重の約12%~13%に相当する量のプランクトンを食べているのです。
体重約450キロのマンタの場合:
➡️一週間に54キロものプランクトンを食べる計算になります。
なぜマンタは深海まで潜水するの? 驚きの追跡調査
マンタといえば、海の表層付近を泳いでいるイメージがありますが、実は驚くほど深い海まで潜ることがあります。
2020年に発表されたニューカレドニア大学の研究では、ナンヨウマンタの行動を衛星タグ(PSATタグ)で追跡調査しました。
その結果、驚くべき生態が明かになりました。
- 調査されたすべての個体が、水深300mを超える深海へ潜水していた。
- 最も深く潜った個体は、なんと672mに達していた。
- この深い潜水の多くは「夜間」に行われていた。



えっ!?マンタって672mもの深海まで潜れるんだ!
深海へ潜る理由:巨大な体を維持するための「エサ探し(遠征)」
では、なぜマンタはそこまで深く潜るのでしょうか?
研究者らは、「表層にいる動物プランクトンを食べるだけでは十分なエネルギーが足りず、より多くのエサを求めて深海まで潜っている可能性がある」と考えています。
つまり、マンタは巨大な体を維持するために、私たちが想像する以上に広い範囲を移動しながらエサを探しているのです。この研究は、マンタが深海環境を利用しながら生きていることを示す貴重な発見となりました。
マンタはいつ寝るの?「眠れない」理由と呼吸の秘密
マンタはマグロやカツオなどと同じ「回遊魚」の仲間です。他の多くのエイのように、水底でじっとして過ごすことはありません。



じゃぁ、マンタはいつ寝るの?
実は、マンタは「眠らない」というよりも、じっとして「眠れない」のです。
その理由は、彼らの独特な呼吸法にあります。
泳ぎ続けないと窒息する?マンタの「ラム換水法」
マンタは常に口を開けて泳ぎながら、海水に溶け込んだ酸素をエラに取り入れて呼吸しています。
この呼吸方法は、「ラム換水法(ラムジェット換水法)(Ram ventilation)」と呼ばれ、自ら泳ぐことで生まれる水流を利用して、エラに新鮮な海水を送り込んでいます。
そのため、マンタは泳ぎを止めると十分な酸素を取り込めなくなり、酸欠状態に陥ってしまいます。
最悪の場合は窒息してしまうこともあるため、マンタは「横になってぐっすり眠る」ことができません。



つまり、マンタは泳ぎ続けることで生きているんだね。
マンタの知能レベルとは?魚類トップクラス級を誇る脳の秘密
マンタは、魚類の中では珍しく非常に大きな脳を持っています。
そのサイズは人間の握りこぶしほどですが、「体の大きさに対する脳の割合」は魚類の中でも最大級。
Manta Missions
ジンベエザメと比較しても、マンタの脳は約10倍大きいとされています。
さらに、学習や記憶、感覚の統合を担う「前脳」がすべてのエイの中で最も発達していることも分かっています。



マンタは実際にどれほど賢いの?
その謎を解き明かすため、マンタ研究の第一人者であるシーラ・アリ(Csilla Ari)博士は、ある画期的な実験を行いました。
マンタが自分を認識する?驚きの「ミラーテスト」
アリ博士が行ったのは、動物の自己認識能力を調べる「ミラー自己認識(MSR)テスト」です。
鏡に映った自分の姿を認識できる動物は、アジアゾウ、バンドウイルカ、チンパンジー、オランウータンなど、ごく限られています。
しかし2016年、アリ博士がマンタを対象に、水槽に鏡を設置する実験を行ったところ、世界中の研究者を驚かせる結果がでました。
この研究では、マンタを「鏡のある水槽」と「鏡のない水槽」の2つに入れ、行動を長時間観察しました。
その結果、鏡のない水槽に比べて、鏡のある水槽にいたマンタは、鏡に映った自分の姿を確認するかのようにヒレを動かしたり、鏡の前で円を描くように泳いだりする行動が多く見られました。また、別の研究では、マンタが鏡の前で泡を吹き飛ばす独特な行動も動画で撮影されています。
これらの行動は、自己認識能力を持たない動物が鏡に対して示す「敵だと思って攻撃する」「仲間だと思って求愛する」といった反応とは明らかに異なるものでした。



魚なのに鏡に映った自分を気にするなんて、本当に賢いのかもしれないね!
体の「色」が変わる?研究者が注目したもう一つの証拠
アリ博士はさらに、マンタの「体色の変化」についても調査しました。
マンタは食事の後や、他の個体に出会った際、背中やお腹、頭部の色が変化することが確認されています。
しかし興味深いことに、鏡のある水槽にいたマンタは、鏡に映る自分の姿を見ても一切色を変化させませんでした。
アリ博士はこれも「鏡に映る姿を、自分以外の『別のマンタ』だと誤認していない証拠(=自分の姿だと分かっている証拠)」の一つと考え、マンタが自己認識能力を持つ可能性があると結論付けたのです。
⚠️ 現在も続く科学者たちの議論
ただし、この研究結果には今も異論があります。
ミラーテストの開発者であるゴードン・ギャラップ(Gordon G. Gallup Jr.)博士は、「鏡の前で見られた行動は、単なる好奇心や、新しい環境を調べているだけの探索行動である可能性もある」と指摘しています。
そのため、マンタが本当に自己認識能力を持つのかについては、現在も研究が続けられています。
マンタがやってくる『クリーニングステーション』とは
クリーニング ステーションとは、魚たちが体に付いた寄生虫を小さな魚(クリーナーフィッシュ)に掃除してもらう場所のことです。
バリ島・ヌサペニダの海にはこの重要なスポットがあり、ミゾレチョウチョウウオなどがマンタの体をきれいに掃除しています。



なぜバリ島ヌサペニダでは、一年中高い確率でマンタに会えるの?
その秘密が、まさにこのクリーニングステーションにあります。
「ナンヨウマンタ」には、同じクリーニングステーションを何度も繰り返し利用する習性があります。
バリ島のヌサペニダには、彼らがクリーニングに利用する絶好の「根(岩場)」があり、ここが世界的なスポットである「マンタポイント」となっています。お気に入りの場所がそこにあるからこそ、私たちは年間を通して高確率でマンタに出会うことができるのです。
📌 実際にクリーニングステーションでマンタを観察できるヌサペニダのマンタポイントについてはこちら
マンタとミゾレチョウチョウウオの「相利共生」
実際のクリーニングステーションでは、どのような光景が広がっているのでしょうか?
根(岩場)の上までやってきたマンタは、岩の周りをゆっくり旋回し始めます。
すると、ミゾレチョウチョウウオたちが一斉に群がり、マンタの体に付いた寄生虫をパクリパクリと食べ始めます。
- マンタ:体が綺麗になって健康を維持できる
- ミゾレチョウチョウウオ:安全にエサ(寄生虫)をお腹いっぱい食べられる
ここでは、お互いに利益を得て助け合って生きる「相利共生」という美しい海の営みを見ることができます。



マンタにとっては、まるで海のエステサロンみたいな場所なんだね!
✨【ガイドの視点】
長くガイドをしていると、マンタに対して不思議な感覚を覚えることがあります。
クリーニングステーションで待機していると、マンタはダイバーの存在を認識しているように感じるんです。
マンタは好奇心旺盛な生き物と言われていますが、こちらがじっとしていると、マンタの方から興味深そう距離を縮めてくることがあります。
しかし、接触しそうになる直前には、スッと方向を変え、ダイバーの脇を横切るように泳いで行きます。
もちろん、マンタが何を考えているのかは分かりません。それでも、まるでこちらを観察しているかのように感じる瞬間があり、何度見ても飽きることがありません。
お掃除だけじゃない!恋が生まれる「マンタトレイン」の舞台
クリーニングステーションはお掃除をするだけの場所ではありません。 交尾行動の始まりとなる「マンタトレイン」が観察されることもあり、マンタ同士が出会う重要な場所でもあります。
このように、クリーニングステーションはマンタの健康維持だけでなく、繁殖行動にも関わる重要なスポットなのです。
📌ヌサペニダでよく見られるナンヨウマンタに対し、より大型の「ジャイアントマンタ」もクリーニングを行います。ただし、彼らは外洋を広く回遊するため、ナンヨウマンタほど頻繁には観察されません。
✨【ガイドの視点】
ちなみに、ヌサペニダのマンタポイントは、マンタの大好物であるプランクトンが豊富な場所です。
そのため、いわゆる「真っ青に透き通った海」を想像されていると、少し驚かれるかもしれません。
プランクトンの多さゆえに、透明度が10mもあれば「今日はコンディションがいい!」と言えるような海ですが、この豊かな栄養分こそが、マンタをこの場所に惹きつけている理由でもあります。
また、外洋に面しているため、日によっては高波やサージ(うねり)が入り込むこともあります。
私たちは、マンタがどこで旋回しているのか、その日の海の状態をしっかりと見極め、皆さんが確実に出会える場所へとご案内します。
マンタの繁殖行動の謎とは?一生で数匹しか産まない理由
マンタの寿命は40〜50年程度と考えられていますが、その生涯で残せる子どもの数は決して多くありません。
メスのマンタが大人(性成熟)になるまでには約8〜10年。そこから数年に一度、通常はたった1匹(まれに2匹)しか子どもを産みません。
この繁殖のスピードの遅さが、マンタが世界的にとても希少で守られるべき存在である理由の一つとなっています。
※IUCNの報告によると、ナンヨウマンタの出産間隔は4〜5年に1回とされています。
海で見分けられる?マンタのオスとメスの特徴




マンタのオスとメスは、尾の付け根にある生殖器「クラスパー」の有無で見分けることができます。
オスには2本のクラスパーがあり、これが生殖器の役割を果たしています。
一方、メスにはクラスパーがないため、尾の付け根の形状を見れば判別できます。
マンタのドラマチックな求愛「マンタトレイン」


マンタの恋の始まりは、「マンタトレイン」と呼ばれる行動から始まります。
これは、1匹のメスの後ろを、数匹から数十匹のオスがまるで列車のようにつながって追いかける行動です。
実際にマンタトレインに遭遇すると、その迫力に驚かされます。
普段はゆったりと泳いでいるマンタたちですが、この時は勢いよく泳ぎながら次々と目の前を通り過ぎていきす。
先頭を泳ぐメスに対し、多くのオスが後ろに続く光景はとても壮大で、マンタダイビングの中でも人気の高いシーンです。



何十匹ものオスが1匹のメスを追いかけるなんて、マンタの恋愛は想像以上にドラマチックなんだね!


🤝 独特な交配プロセス
メスが受け入れると、オスはメスの上から接近し、胸びれ(翼端)を口でくわえて体を固定します。
そして、オスは2本あるオスはクラスパー(clasper)生殖器のうち1本を使い、メスの総排出腔(クロアカ/cloaca)に挿入して受精を行います。 クラスパーはオスがメスに精子を送るための器官で、腹びれの延長部分にあります。 オスには2本のクラスパーがありますが、交尾の際に使用されるのは通常1本だけです。
※現在のところ、メスがどのような基準でパートナーを選ぶのかを示す決定的な研究結果はありません。もし新しい研究をご存じの方がいたら、ぜひ情報をお寄せください。
マンタの妊娠と出産!お腹の中でどう育つ?


マンタの妊娠期間は約12〜13か月。
お腹が徐々に大きくなり、妊娠後期になると背中から見ても膨らみが分かるほどになります。
実際にダイビング中に妊娠中と思われるマンタに出会うと、そのお腹の大きさは一目で分かります。
では、そのお腹の中で赤ちゃんはどのように育っているのでしょうか?
マンタは人間とは異なり、胎盤やへその緒がありません。



マンタの赤ちゃんは、どうやって栄養をもらうの?
マンタは卵を産むのでなく、卵胎生(らんたいせい)で、卵を母親の体内で孵化させた後、赤ちゃんの状態で出産します。



マンタの胎児は、お母さんの子宮内で「子宮液」を吸収しながら成長します!
沖縄美ら海水族館でのマンタの出産と胎児の成長
2009年6月、沖縄の美ら海水族館で、マンタが2回目の出産に成功しました。研究者によると、胎児は子宮内でリズミカルに呼吸し、口を繰り返し開閉させる行動が観察されたそうです。
この研究により、これまでほとんど知ることのできなかったマンタの胎児の成長過程が明らかになりました。
※沖縄美ら海水族館:マンタの子宮内胎仔の長期モニタリングに成功!
マンタの赤ちゃんの成長:驚異の成長スピード
お母さんのお腹のなかで子宮液(子宮ミルク)をたっぷりもらった赤ちゃんは、いよいよ海の世界へ飛びたします。
生まれたばかりの赤ちゃんは、すでに親とよく似た姿をしており、体幅は約1.3〜1.5mにもなります。
驚くことに、生後1年ほどで体の大きさは約2倍に成長するといわれています。
マンタが直面する脅威と環境問題
オニイトマキエイとナンヨウマンタは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種です。
- オニイトマキエイは2絶滅危惧種(Endangered)
- ナンヨウマンタは危急種(Vulnerable)
IUCNの報告書によると、オニイトマキエイの個体数は過去3世代(87年~)で50〜79%減少したと推定されており、今後も減少が続く可能性があるとされています。
ワシントン条約による規制とインドネシアの決断
マンタは現在、漁業や環境問題など、さまざまな脅威に直面しています。
2014年、マンタはワシントン条約(CITES)によって国際取引規制の対象となり、保護が強化されました。
また同年、インドネシア政府は世界最大のマンタ保護区の設立を宣言し、マンタ観光業への転換を進めました。
その背景には、「生きたマンタは観光資源として高い価値を持つ」という考え方があります。
実際に、バリ島やコモド国立公園ではマンタを目的に訪れるダイバーや観光客が多く、地域経済を支える重要な存在となっています。
しかし現在でも、一部地域では違法漁業や混獲(意図せず網にかかること)が問題となっています。
身近に迫る環境問題。バリ島の海とマイクロプラスチック
私たちが普段潜っているバリ島の海も、環境問題とは無縁ではありません。
特に、雨季になると大量のプラスチック・ゴミが海に流れ込み、深刻な問題となってます。
海に流れ込んだプラスチックはやがて細かく砕かれ、「マイクロプラスチック」へと姿を変えます。
マンタは動物プランクトンを食べる際に、こうした小さなプラスチック片を一緒に取り込んでしまう可能性があります。
私たちが海で何気なく捨てたごみが、巡り巡ってマンタをはじめとする海洋生物に影響を与えているかもしれません。
マンタを守るために、私たちダイバーができること
マンタの神秘的な姿をこれからも守り続けるために、私たちが大切にしてる3つのこと。
- 「距離」を重視する
好奇心旺盛なマンタですが、無理に追いかけるのはNGです。じっとしていれば、彼らの方から近づいてきてくれます。マンタのペースを尊重することが、最も素敵な出会いへの近道です。 - 海のゴミを持ち帰る
プラスチック製品はマンタたちにとって大きな脅威です。ダイビング中に見つけたゴミを一つでも回収することが、私たちにできる最も直接的な保護活動です。 - 中性浮力のスキルを磨く
サンゴを傷つけたり、砂を巻き上げない。中性浮力を保つことは、彼らの住処を守ることに直結します。
彼らがいつまでも安心してクリーニングステーションへ戻ってこられるよう、配慮を添えたダイビングを一緒に楽しんでいきましょう。
中性浮力の記事はこちら
まとめ:バリ島の海で、大好きなマンタと出会うために
今回は、バリ島の海で出会えるマンタの生態から、お掃除屋さんの秘密、驚きの繁殖行動、そして彼らを取り巻く環境問題までご紹介しました。
最後に、今回の大切なポイントをおさらいしてみましょう。
- 2種類のマンタ:バリ島で出会えるのは、沿岸に居着く「ナンヨウマンタ」がほとんど。
- 驚きの知能:魚類で最も脳が大きく、自己認識ができる可能性があるほど高い知能を持っている。
- クリーニングの謎:同じ根(お掃除屋さん)を何度も利用する習性があるから、1年中高確率で会える。
- 命の神秘:数年に一度、1匹(まれに2匹)しか子どもを産まない希少な生き物。
- 直面する脅威:絶滅の危機やマイクロプラスチックの問題に直面しており、世界的な保護が必要。
一生に数匹しか子どもを産まない奇跡のような命であり、絶滅の危機に瀕しているマンタたち。彼らのダイナミックで美しい姿を未来のダイバーへ残していくためには、私たちが海の環境そのものに関心を持ち、守っていくことが欠かせません。
バリ島の海を愛するダイバーとして、まずは目の前の海を大切にすることから、一緒に始めてみませんか?
みなさんとヌサペニダの海で、あの圧倒されるような素晴らしいマンタたちに出会える日を、心から楽しみにしています!
参考:
- Manta Pacific Research Foundation
- Researching manta ray brains: Csilla Ari at TEXxTampaBay
- Rapid coloration changes of mana rays (Mobulidae)
- Laboratory of Csilla Ari, Ph.D.
【もっとバリ島の海を知るために】



