ウミウシの不思議!短い体のムカデミノウミウシなんているの?

ウミウシの世界には、私たちの想像を超えるような不思議がたくさん詰まってますね。
先日、バリ島・パダンバイのダイビングスポット「桟橋下(ジェティ)」で、淡い紫色が美しい小さな個体を見つけました。
水中では、「見たことのない種類かも?」と思ったのですが、帰宅後に写真をじっくり見返して見ると…
なんと、ジェティのあちこちにいたムカデミノウミウシとそっくり!
でも、ひとつだけ決定的に違う点があったんです。
それは、体の長さ!
えっ!体が短いムカデミノウミウシなんて本当にいるの?
そんな疑問をきっかけに、ムカデミノウミウシのことを少し深く調べてみることにしました。
ムカデミノウミウシのはずが…体が短すぎ⁉
ムカデミノウミウシと言えば、その名の通りムカデのように細長い体が特徴です。

ところが今回見つけた個体は、頭部とセラタ(背中のヒラヒラ)はムカデミノウミウシにそっくりなのに、体の長さが不自然なほど短いのです。

「一体、あなたは誰?」
そう思った私は、ウミウシ好きが集まるオンラインコミュニティ「Nudibase – sharing」で相談してみました。すると管理人さんから興味深い答えが返ってきました。
これは、Pteraeolidia semperi species complex (ムカデミノウミウシの種複合体)であるとのこと。
ムカデミノウミウシは学名で、Pteraeolidia semperi。
そして、species complex(種複合体)とは…
species complex(種複合体)ってなに?
species complex/種複合体とは、分類学で使われている言葉で、見た目はほとんど同じでも、遺伝子レベルで異なる複数の種が集まったグループのことをいいます。
特徴は、
- 外見は非常によく似ている
- かつては「同じ種」とされていたことが多い
- 遺伝子解析の調査により、見た目では区別できなかった複数の種が実は異なることが明かになることが多いです。
- ただし、外見が非常に似ているのため、見た目だけでは判別するのは難しいです。
ムカデミノウミウシには、このような種複合体が多く存在するみたいです。
例えば、かつて同じ種として扱われていたPteraeolidia Lanthinaも、Wilosn & Burghardf (2015)の研究で、実は複数の遺伝系統があることがわりました。外見では区別できなくても、遺伝子レベルでは異なる-隠蔽種(いんぺいしゅ)だったのです。
その後の研究により、Pteraeolidia semperiとPteraeolidia lanthinaは別の独立種として正式に分類されるよになりました。
つまり、今回私が見た個体はPteraeolidia semperi species complex(ムカデミノウミウシの種複合体)に含まれる可能性があるということです。
参考:
・More than meets the eye
・Here be dragons:
もう一つの可能性ーそれは「自切」!
さらに調べていくと、もう一つ興味深い仮説にたどり着きました。
それは、ムカデミノウミウシが「自切(autotomy)」する可能性があるということ。
ムカデミノウミウシは、天敵から身を守るため、自ら体の一部を切り離すよことがあるようです。
さらに驚いたのは、切り離した後でも、再生して生き続けるという点。
頭部と前方の器官さえ無事であれば、数日から数週間かけて元通りに再生できるとかようです。
もしかして、あの短い体は「自切の後」だったのかもしれませんね?
ウミウシの仲間で「自切と再生」で良く知られているのは、コノハミドリガイです。
奈良女子大の研究によると、コノハミドリガイは体内に寄生したカイヤシ類を排除するために自切りを行うので、ムカデミノウミウシの自切とは目的が異なります。しかし、ウミウシの中には「自切と再生」をする種が確かに存在することわかっています。
観測から広がる、ウミウシの奥深い世界ー誰かこの謎、解けますか?


今回のダイビングで見つけた一匹のムカデミノウミウシは、思いがけず「species complex/種複合体」や「自切と再生」といった生き物の不思議に触れるきっかけとなりました。
現時点では、この短い個体が未分類のムカデミノウミウシの仲間である可能性が高いですが、はっきりしたことは分かりません。
それでも、こうした疑問こそが観察の醍醐味なのかもしれません。
もしこの記事を読んで「自分も見たことがある!」という方や、ウミウシに詳しいかたがいたら、ぜひ教えてください。
ちなみに、バリ島のマクロダイビングと言えばトランベンのマックダイビングポイントが有名ですが、南部リゾートから近いパダンバイもウミウシファンにとっては宝の山です。