バンガイカーディナルフィッシュ:美しい固有種の危機と保護状況
あなたは「天の川の魚」を知っていますか?
七夕の夜空に流れる天の川を思わせる美しい模様を持つ魚が、インドネシア・バンガイ諸島の固有種「バンガイカーディナルフィッシュ」です。小さな体に、白と黒の模様が星空を彩るように広がっており、その姿はまるで夜空に浮かぶ天の川のようです。
学名:Pterapogon kauderni
英名:Banggai Cardinalfish
和名:アマノガワテンジクダイ
この記事では、バンガイカーディナルフィッシュの魅力、特徴、そして直面している課題や保護への取り組みについてご紹介します。
バンガイカーディナルフィッシュとは?
バンガイカーディナルフィッシュは、インドネシアのバンガイ諸島の固有種。
テンジクダイ科に属し、1933年にF.PK Koumans氏により発見されましたが、その後長い間忘れられていました。
1994年にGnrald Allen博士によって再発見されました。 これをきっかけに、黒と白の美しい模様と希少性が注目され、ダイバーや、観賞魚として世界中で人気が高まりました。
この魚の生態で注目すべきは、「口内保育」というユニークな繁殖行動です。
オスが卵を口内で守り、孵化するまで安全を確保します。このユニークな行動によって、卵は外敵から守られ、繁殖の成功率を高めています。
Banggai Cardinal Fish merupakan jenis ikan mouthbrooder atau memelihara anak di mulutnya. Foto: Wisuda/Mongabay Indonesia
また、バンガイカーディナルフィッシュは群れを作って生活し、イソギンチャクやガンガゼの周りに隠れることで身を守る習性があります。(※ブログ:魚の共生)
バンガイカーディナルフィッシュ生息地拡大の悲しい背景:なぜバリ島に?
バンガイカーディナルフィッシュは、もともとバンガイ諸島固有の魚でした。
しかし、1990年代以降、観賞魚としての需要が急増し、輸出目的でバンガイ島から他の地域へ運ばれるようになりました。
輸送中は、一つの容器に30~50匹という高密度で詰められ、水の交換がほとんど行われなかったため、死亡率は25~30%。そして、この輸送過程で基準を満たさなかったり、ストレスや傷で商品価値が下がった個体が検査後に海へ放流されるケースが発生しました。
放流された魚は、バリ島北部のギリマヌク(シークレットベイ)などで繁殖を始め、新たな生息地を形成するようになったと考えられています。
同様の現象は、北スラウェシのマナドや レンベ、南東スラウェシのケンダリ、中部スラウェシのルウックやパル、東ジャワのバニュワンギでも見られます。
過剰捕獲と保護活動の課題
バンガイカーディナルフィッシュはその美しさと希少性から観賞魚として高値で取引され、特に2000年半ば頃から捕獲量が急増。
2002年では月間5万~6万匹、2004年には少なくとも月間11万8000匹、2007年までには年間100万匹規模に達成。
この推定値には、漁師が保持するカゴの中での死病率や密魚は含まれていないため、実際の捕獲数はさらに多い可能性があると明記しています。(※Ecological Impacts and Practices of the Coral Reef Wildlife Trade)
その結果、バンガイカーディナルフィッシュは、2007年に絶滅危惧種に指定され、IUCN(国際自然保護連合)は年間90万匹が水族館向け捕獲されていると発表しています。
バンガイカーディナルフィッシュの主な輸出先はアメリカ、中国、ヨーロッパ。
アメリカだけでも、年間約15万~20万匹が輸入されていたようです。
驚く事に、2002年時点での野生の個体数はわずか240万匹と推測されていたので、この過剰な捕獲がもたらした影響は深刻ですね。
2024年に発表された研究によると、捕獲は現在も続いており、バンガイカーディナルフィッシュを含む観賞魚の輸出が、この地域の漁師たちの年収の約5分の1を占める重要な収入源となっている事も明らかになっています。
完全捕獲禁止は地域経済への課題が伴いますね
インドネシア政府の取り組み:バンガイカーディナルフィッシュの養殖
インドネシア政府は、バンガイカーディナルフィッシュの保護に向けてさまざまな取り組みを進めています。
捕獲業者の免許制、捕獲量のコントロール、監視、近代的な養殖の促進など、政府がバンガイカーディナルフィッシュをワシントン条約(CITES)付属書に加えることを阻止した代わりに国内での保護活動を強化する必要があります。
毎年の捕獲量はインドネシア国家研究革新庁(BRIN)の推奨に基づいて決定されます。
2024年の総捕獲量は38,000匹に設定され。その内訳は以下の通りでした:
- バリ:13,000匹
- 東ジャワ:2,000匹
- 中部スラウェシ:10,000匹
- 南東スラウェシ:10,000匹
- 北スラウェシ:3,000匹
捕獲は特定の地域と時期に制限されており、バンガイ諸島周辺の自然生息地では、繁殖のピークである2~3月および10~11月以外の時期にのみ漁が許可されています。
バンガイカーディナルフィッシュ養殖の可能性と現状
Aquarium berisi budidaya ikan capungan banggai ini dibududayakan oleh kelompok BCF Lestari. Foto: Christopel Paino/Mongabay Indonesia
政府の取り組みの中で注目すべきは、バンガイカーディナルフィッシュの養殖。
バンガイカーディナルフィッシュの養殖は、自然海での捕獲量を減らし、地域住民の教育と経済の発展を促進するために重要な取り組みとされています。
幸いにも、バンガイカーディナルフィッシュは一夫一妻制で、口内保育を行うため、養殖に向いているようです。
現在の正確な生産量は分かりませんが、中央スラベシの「BC Lestarid」では早くから養殖が進められ、 アンボンの「海洋養殖センター(BPBL)」では既に大量の養殖が成功しているようです。また、バリ島のLINI(コミュニティー開発プログラム)でも研究が進んでいます。
これらの養殖活動は、バンガイカーディナルフィッシュの絶滅危機を軽減するとともに、地域経済の活性化にも貢献する可能性を秘めていますね。
私とバンガイカーディナルフィッシュの出会い
私がこの魚に初めて出会ったのは、ダイバーになる前、友人と訪れた池袋のサンシャイン水族館でした。
その日はちょうど七夕。水槽の中でひときわ目を引く魚が泳いでおり、その名は「アマノガワテンジクダイ」。そのロマンティックな名前と美しい姿に心が惹かれました。
当時、私は純粋に「綺麗な魚だな」と感動し、その美しさに見とれていました。しかし、ダイバーになって、インドネシアのレンベ海峡で再び出会った時、その魚がバンガイ諸島の固有種であることを知り、深い背景に触れることとなりました。
今では、その魚の絶滅危機にまで関わる背景を理解することで、当時の純粋な感動とは異なる複雑な思いが湧いてきます。
水族館で最初に出会った時は、ただ美しい観賞魚として感動していた自分が、ダイバーとしてその後に触れることで、環境や生態系、保護の重要性を強く感じるようになったことに、不思議な気持ちが込み上げてきます。
あなたも「天の川の魚」に会いに行きませんか?
バンガイカーディナルフィッシュは、美しさだけでなく、その背景に多くのストーリーを持つ特別な魚です。バリ島やバンガイ諸島でダイビングを計画しているなら、ぜひこの小さな宝石たちに会いに行ってみてください。
バリ島では北部ギリマヌクにあるシークレットベイで通年見ることができます。
ダイバーとして、この美しい魚を守りながら、その魅力を再発見してみませんか?
参考資料:
・Menjaga Ikan Endemik dari Perairan Banggai
・Reefs to rivers: Florida fisheries science
(Using aquaculture as a tool to aid in the recovery of imperiled species:
The case of Banggai Cardinalfish)
・Indonesia struggles to protect Banggai Cardinalfish
・Fish of the Week – Banggai Cardinalfish
・Ecological Impacts and Practices of the Coral Reef Wildlife Trade